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布団の下でモゾリと天子が動く。 こちらの寝起きの気怠い気分には関わらず、体を寄せてひっついてくる天子。 昨日の夜、言い争った時には見せなかったようなしおらしさをする彼女。 気まぐれな彼女の青い髪を梳くと、首筋に頬をすり寄せてきた。 昨晩あれだけ言ったのに今朝はこんなに寄ってくる彼女に、少し意地悪をしてやりたくなってしまう。 「嫌いじゃなかったの?」 「嫌い。」 昨日の嫌いとは違う、負けず嫌いのキライ。 何度かの衝突の末に、それが判る程度には彼女のことを知るようになった。 こちらの反応が薄かったためか、天子が少しむくれた気がした。 「あんたなんか、大っ嫌い。」 ふうん、と気のない返事を返す。幾ら嘘だと判っていても、ここで突っ込んではいけない。 精一杯の薄いプライドに包まれた彼女はそれ故に敏感で、無遠慮に触れてくる周りの人々を剃刀の如く鋭く切り裂く。 「信じてないでしょ。」 「うん。」 即答する-これは本心だから。そしてそれが気に入った彼女は、直ぐに機嫌が直る。 「あんたなんて、グズで、馬鹿で、鈍くさくて…。」 「だから、アンタは私が治してアゲルから。」 言葉とは裏腹に、一層こっちにしがみつく彼女を、心が壊れないように優しく抱きしめる。 「アンタは私が居ないと駄目なんだから…。」 ボソリと言い聞かせるように彼女は言った。 綺麗なホテルの喫茶店で珈琲を注文する。 いつもは砂糖を入れた紅茶のような甘い方が好みだったが、目の前の美人な女性に対して 無意識に見栄を張ってしまったのかもしれないと、心中一人反省する。 目の前の女性が名刺を差し出した。 名刺なんぞ無い身分の自分にとっては、受け取るのみになってしまってやや不格好であった。 上等な白い厚手の紙に、シンプルに名前と連絡先のみが書かれている。 世間知らずの自分でさえ知っているよくCMで目にする大企業の、そのまた持株会社の名前が黒い文字で大きく書かれていた。 「初めまして、○○さん。永江衣玖と申します。」 「初めまして、永江さん。本日はどういったご用件で。」 これほどまでの凄い人から、どうして声が掛かったのかは不思議であった。 勿論美人から声が掛かるのは、昔ならばやぶさかではなかったのであるけれども、 天子と知り合ってからはそれは別問題となった。綺麗な薔薇には棘があるとは、よく言ったものである。 「実は天子さんのことでお話がありまして。」 名字の比那ではなく、天子ときた。彼女のことを良く知っており、しかもあれだけ人の好き嫌いが激しい、 大体九分は嫌うであろう彼女がそう呼ぶことを許しているのは、相当に天子と親しいと言外に伝えていた。 「比那さんのことですか。」 居住まいを正して答える。彼女の眉が少し不自然に動いた。 「ええ、そうなのですが…。少し失礼ですが、いつも比那と呼んでいらっしゃるのですか?」 「いえ、普段は天子と呼んでいますが、比那が名字だと聞いていたので、それが…。うん、まさか…。」 第六感がザワザワと騒ぎ、心臓が鼓動を大きく打つ。 そういえば、彼女の免許やパスポート、果ては保健証すら見たことが無い。 全ての郵便は自分の気付宛てで送ってきていたので、彼女の名前を疑問に思うこともなかった。 「いえ、それはありません。総領娘様は、そのような誤魔化しをする方ではありませんので。」 こちらの疑念を読んだかのように打ち消す彼女。 顎に手を当てて考えていた彼女は、言葉を続ける。 「そもそも、総領娘様の名前は比那ではなく、比那名居天子とおっしゃります。」 「偽名?」 「いえ、むしろ護身のためです。今は家から離れておりますが、それでもご実家はとても大きな会社ですので。」 「天子の一族に創業者が居られるとか?」 スーツを着た彼女の目を覗きこみ、苦し紛れのように質問をする。 彼女の目は笑っていなかった。 「もう、お気づきでしょう。」 ああ、やはり、 「総領娘様は現代表のお子様で、しかも一人娘です。断じて「妾の子供だから家から疎まれたのよ。」なんてことはありません。」 彼女のその性格と心は、 「どうでもいい子供に、天の子供なんてつける訳ありませんからね。」 硝子の様に脆く壊れやすく、鋭い。 「それで、いかがされますか。」 機を制して彼女が問いかけてくる。聞いてしまった以上、最早元には戻れない。伸るか反るか、賽は投げられた。 「衣玖、何やってんの。」 鋭い声が後ろから飛んでくる。いつの間にか後ろにいる彼女が、どんな顔をしているか容易に想像がついた。 「総領娘様の今後について○○さんとご相談を。」 椅子に乱暴に座った天子が噛みつく。 「私がいない所で何勝手にやってんの。」 これは凄まじく機嫌が悪い気がした。今までの彼女との喧嘩が、たわいもない戯れ言の様に思える程に。 「総領様も娘様のお帰りをお待ちです。そろそろお戻りになられては?」 永江さんは天子に臆さずに話す。飄々と刃を躱す姿が見えた。 「絶対に嫌。」 即断、即決。この性格で、家を出ることも決めたのであろう。 「しかし、このままお遊びをされるお積もりですか。」 敢えて空気を読まずに突っ込んでくる永江さんだが、それは彼女の地雷に触れた。 「こいつは私のモノ、絶対に渡さない。別れる位なら死んでやる。」 予想外に強い力で天子の方に引き寄せられる。 ここまで執着されているとは、正直意外であった。大地が震える如く、彼女は全てを巻き込む。 そして全てを犠牲にして、雷の様に真っ直ぐに目的に向かって彼女は進んでいく。 「いやはや、中々に総領娘様には驚かれますね。そこまで思い詰めていらっしゃるなら、少し時間を置きましょう。」 天子の決意を悟った永江さんが伝票を取る。立ち上がろうとする彼女に天子が声を掛けた。 「私、コイツとの子供がいるの。」 二度目の雷に打たれて、伝票がハラリとテーブルに落ちた。 感想 好き -- 名無しさん (2018-02-09 07 59 20) 新喜劇だと、乗り込んできた天子の両親とひと揉めしてから強盗かやくざに捕まった天子を助けて結婚を認めてもらう流れ -- 名無しさん (2018-06-05 14 54 58) 此処の天子ちゃんは可愛いですね。 -- タタリさん (2020-05-31 15 34 50) 名前 コメント
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タグ一覧 懐の中身に対する疑念シリーズ 早苗 神奈子 諏訪子 「何だ諏訪子……今日は早いんだな」 洩矢神社にて、社殿にやってきた八坂神奈子は呟いた。 神奈子の眼の先にいるのは、ざっくばらんな会話が出来るほどに仲も良ければ年季もある相手。 その上この時の神奈子の口調は……呆れと言うか諦めと言うか。そう言う弱々しさが表に立っている声色であった。 そう、今の洩矢神社で神奈子がそんな疲れを見せながら声をかけるのは。 フィクサーを気取って、遊郭街にて存在感を増し続けている。洩矢諏訪子以外にはいなかった。 「あー……うん。今日ぐらいは早めに帰って、早起きしておかないと不味いかなと思って」 少しは真面目な事を言ってくれていそうな諏訪子であったが、しかしながら彼女はその実全く真面目では無い。 今の諏訪子の姿は、しかめっ面を浮かべながら熱いコーヒーを飲んでいるだけであった。 ……そうは言っても諏訪子は神様だから、神様であるという事を知っている者達からすれば。 『洩矢様は何ぞ、難しい事をお考えでいらっしゃる』ぐらいには、幸いにもそう考えてくれる信者は多い。 「昨日も、行ってたんだよな?」 けれども八坂神奈子は、洩矢諏訪子とは旧知の仲である。少なくとも昨夜に置いては何をやっていたかぐらいは、理解できる。 「もちろん」 「……そうか。それから、早苗から伝言だ。暗躍は遊郭街の内部だけにしてくれとさ。人里での情報収集は早苗がやるから…… 要するに、昨日みたいに上白沢の旦那にちょっかいを出すなとさ」 「無理だよ、それは。そうは言っても遊郭は、人里に置いてもっとも金を稼いでいる機関だ。稗田と全く関わらないなんてありえない」 ……神奈子だって、長年の付き合いからくる直感があるから。諏訪子が早苗からの伝言と言うよりは忠告を。 それを素直に聞き入れるとは到底思ってなどいなかったが。 いくら何でも即答は酷いだろうと、そうとしか思わなかった。 「それでも諏訪子、答えを腹の底にしまうぐらいの―― 思わず神奈子は声を荒げそうになったが、寸での所で気づいて外の方向へと目をやったら。 早苗の姿が見えた。見える程度の距離なのだから、ここで声を荒げればまた何かがあった事ぐらい、気づかれてしまう。 幸い、早苗は信仰してくれている人間と何かを話している最中だったので。 神奈子からの言葉を、諏訪子がひらりと受け流してしまった事に激昂しかけた、その表情や雰囲気に対して。 どちら共に読み取られることは無かったが。 「え!?」 その代り、早苗の方が何かの異常事態に見舞われてしまい。短い言葉であるけれども、切っ先の鋭い声を上げてしまっていた。 無論、フィクサーなど柄では無いと言う神奈子は早苗が見せた様子に、何が起こったのか見当がつかずに緊張感を走らせたが 「ああ……やっぱりか。昨日は早じまいしておいてよかったよ」 諏訪子はと言うと、熱いコーヒーを飲み干しながら。何かの予測が的中した事を喜んでいたが。 その喜ぶ表情は、黒々しい物が際立っていた。それが神奈子を珍しく苛立たせた。 「お前は出るな、私が行く」 「うん、まぁ。一旦任せるよ」 諏訪子が立ち上がりかけたところを、完全に阻止する形を取りながら。神奈子はずんずんと境内に降りて行った。 しかし諏訪子はと言うと、しばらく――と言っても10秒すら無い――考えた後、些末だと思ったのか。 半端に浮き上がらせた腰を、何だかんだで浮き上らせたが。 それは奥の方に置いてある、ポットで新しいコーヒーを入れるための起立でしかなかった。 神奈子から機先を制されたと言うのに、諏訪子のあの態度は。 どうやら諏訪子の中では、もうだいぶ図柄と言うのが出来上がっていて。 今は別に、自分が表に立とうが立つまいが。そのどちらを取っても多勢に変わりは無いという事なのだろうか。 それとも戯れに上げた観測気球の一部であるから、重大視していないのだろうか。 だがどのような設計図を、諏訪子が脳裏にて描いていたとしても。それを諏訪子は教えてくれないだろうし。 自分は……もう一度早苗の表情を確認したら、その顔が青ざめていた。 そんな状態の早苗を放っておくことは出来ない、後手後手に回っている事は理解している。 それでも自分は、青ざめ表情の早苗の隣に『いなければならない』のだ。 あの子には、多かれ少なかれとは言え。間違いなく無理をさせて、幻想郷に連れてきてしまった。 その負い目……諏訪子はそこにだけは手を出さず、茶化すことも無いが。 ……諏訪子ほどに長生きして、暗躍が好きな性格ならば。気付いていない方がおかしい。 「早苗」 一体諏訪子は何を考えているのだろうか……そもそも素直に、コーヒーのお替りを入れに行ったのだろうか。 社殿の奥に消えた諏訪子の姿は、ここからではもう確認できない。 「早苗、何があったんだ?私で何とかできる事なら何でも―― 「上白沢の旦那さんが倒れた!」 洩矢神社の一柱である、八坂神奈子が境内にまで下りてきたとあって。周りの信者は早苗を相手にする時以上に恭しく頭を下げたが。 そのような礼儀作法の全てを、早苗はどこかにかなぐり捨ててしまいながら。今知った事実の方がより重大で、なおかつ深刻だと。早苗の姿は、そう告げていたし。 上白沢慧音が一線の向こう側である事は、神奈子も知っている。だがそれよりも! この話はあの旦那の急病だけでは終わらない!! 恐る恐る、神奈子は早苗を少し奥に。 ひそひそ話をしても聞かれない場所まで連れてきた。殊勝な信者たちは、何も言われずとも真反対へと引き下がって行った。 「昨日、諏訪子がちょっかいを出したのと関係があると思うか?」 距離を見て、安全だと断言できた神奈子は喋りはじめたが。早苗は神奈子ほどに精神力が戻っておらず。 苦悶に歪んだ表情を浮かべながら「無いはずがありません……」としか言わなかった。 けれども黙ってこそいたが、行動はあった。昨日の事を思い出しているのだろう……養蚕(ようさん)小屋の方を苦々しく。 はっきり言って、睨みつけるような形ですらあった。しかし早苗がなぜそのような事をしてしまったのかは…… 昨夜に置いて、結局遊郭街へと足を向けてしまった諏訪子の影響は無視できないし。 それ以前に、玄関先から出て行く諏訪子の事を早苗は、随分罵り調で全部ぶちまけた。 ……あれは、神奈子様にも、つまりは私にも聞かせるために。大きな声を出したのだろう。 確かに諏訪子のやった事は、調整のための情報収集とは名ばかりの、野次馬よりも酷い火遊びかもしれなかった。 妻である上白沢慧音と比べて、余りにも小さな自分の実力に苛まれている姿は。ともすれば殊勝ではあるけれども。 それを慰める役として、諏訪子が似合わないという事だけは分かる。 それがここに来て、上白沢の旦那が倒れると言う。最悪の結果を招いたのであった。 何とか早苗から聞き出した限りでは、永遠亭から自宅には戻れているようだが……だからと言って喜べるはずは無かった。 上白沢慧音は間違いなく、一線の向こう側なのだから。 その上、大事な大事な旦那にちょっかいを掛けたのが。遊郭街で頭角を現し出している諏訪子と来れば…… 上白沢慧音があらぬ憶測を、と言うよりは妄想をたくましくすることは言うまでもないだろう。 そうなれば諏訪子を上白沢の前に突き出すだけでは済みそうにないし。 諏訪子がそんな事、抵抗するはずだ。 「謝りに行かないと……」 一通りの事をしゃべり終えた後、早苗はふらふらと。ケーブルカーの方に歩いて行った。 飛べるのに、飛ぼうという事が思いつかないらしかった。 「待て、早苗……直接向かえば上白沢慧音を刺激。そうでなくとも、いぶかしませるかも知れないぞ。 旦那が倒れたのならば、今日の寺子屋は早じまいするはずだ」 「じゃ……どうすれば良いんですか」 早苗はもう既に半泣きであった。このまま放って置けば完全な泣き顔になるまで、あと何分もかからないであろう。 神奈子は悩んだ。無論神奈子だって、謝罪の意を全く述べないのは罪悪感もあるけれど、悪手という事ぐらい理解している。 けれども、今この場で向かうのもやっぱり悪手なのだ。 「早苗の所にまで『倒れた話』が来たという事は、稗田○○にも急病の報告は入っているはずだ…… 稗田○○ならば、あるいは……何か引っ掛かりを覚えて、早苗に会いに来てくれるかもしれない。 今日は今から、予定通り宣伝活動を続けろ」 「○○さんが来なかったら?」 「……その時は、私が稗田に手紙を出す。うちの諏訪子が遊郭街で『うろうろ』していますが、そちらのご機嫌に影響ないでしょうかと……当たり障りなく。 それから、今日の宣伝活動は私も出る」 神奈子が人里に降りるのは、早苗をいつも通り一人で行かせるには余りにも心配という事もあるけれど。 今現在、上白沢慧音が殴りこんでこないという事は。あの旦那は殊勝にも沈黙を守ってくれているが。 一線の向こう側にいる女性を娶ったものどうしと言う、○○に対する信頼と仲間意識は大きい。 だから昨日の事を言うとすれば稗田○○で、文句を言いに来るとしても稗田○○のはずだ。 ……そう思いながら、八坂神奈子は神社の出入り口をもう一度確認した。 上白沢慧音が殴りこんでくる様子は、無かった。時刻は10時30分を少し回った程度。 そろそろ、と言うかもう今日の寺子屋は終わったかもしれない。 掃除ぐらいなら、生徒だけでも何とかできるだろう。それに人里の方向の騒がしさは。 上白沢の旦那が倒れたことを心配すると言う、それのみ。 八坂神奈子は、出来る限りの白の要素。上白沢慧音が殴り込みには来ない、その状況証拠を頭の中で考えあぐねいていた。 そして今日の宣伝活動は、八坂神奈子が隣にいたお陰で。つつがなくとは到底言えないが、失態だけは犯さずに済んだ。 だが。 「今日の風祝様は、どこかお加減が悪いのだろうか……」 「寺子屋の、上白沢慧音様の旦那様も倒れられたと聞く」 「心配じゃのう……季節の変わり目は体を壊しやすいと言うのは良く聞くが」 早苗の宣伝活動に、普段の眼球をきらめかせるぐらいの輝かしさを見て取れなかった見物人は。 口々に、今日の早苗の様子から、何か風邪の前兆にでもやられているのではないかと、口々に噂と心配を飛びかわしていた。 「さっきは、稗田様の所の……○○様を見かけたのだが。きっと上白沢様の所にお見舞いに行った帰りのはずだが。 難しそうな様子で顔は下を向いておられた。流行病なら心配だのう……」 「うちの子は体があまり強くないんだ……今の内に永遠亭で健康診断とやらを受けに行くかな……」 等と、稗田○○も難しい雰囲気であったと言う噂話まで聞こえてきた。 だが八坂神奈子と東風谷早苗の聞き耳は、そこで完全に止まってしまった。 その後も里の住人は口々に、自己流の健康法を披露したり、やっぱり永遠亭に行くのが一番だと言う者もいたりで。 病気の予防法に話が進んで行ったが。酷い言いぐさだが、そんな事はどうでも良かった。 稗田○○が難しそうな様子をしていた。それが聞こえた瞬間、東風谷早苗は八坂神奈子の方を。 助けを求めるかの如く見たし。 八坂神奈子は八坂神奈子で、一番話が出来そうな存在が来てくれるかもと言う期待と。 諏訪子のやらかした事に対する謝罪をどうすれば良いかで、感情は一杯であった。 「とにかく、午前の部は終わりだ。一旦神社に帰るぞ」 「……はい」 そう神奈子が言って、早苗もうなずいたが。 帰り支度は、えっちらおっちらと。わざと時間をかけていた。 ……無論、期待していたからだ。期待ばかりでもなかったけれども。 しかし何も起こらない方が辛いのも事実。 そして稗田○○は――里の評判ではいたくお優しい方、だから話をしにきてくれたのだろうか―― 洩矢神社がよく宣伝活動に現れる場所に来てくれた。 「俺の友達に、何やった?洩矢諏訪子が、あの暗躍好きが」 その時の○○はわざとらしい笑顔でもなく、明らかな怒りの感情も見えず。 淡々と、能面でも被ったかのように表情が動いていなかった。 「こっちも忙しいんだ……ただでさえ…………」○○は領収書の改ざんの事が頭にあったが。 部外者にそれを出来るだけ言いたくなくて、首を横に振って自らに自制を促した。 ……しかし。 これが計算の結果であるならば、やはり稗田○○は。 妻である稗田阿求のお陰と言う部分は大きかろうとも、名探偵としての格を得つつあるのかもしれなかった。 皮肉な事に、今のこの様子は、稗田阿求が喜びそうな雰囲気を今の○○は持っているなと。 八坂神奈子は、そう断言できた。 感想 名前 コメント
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うちのいそうろうさん 長い坂をゆっくりと上ってくる、背の高い痩せた男は両脇に汗の染みを滲ませて、西日を背にしながら、うつ向き歩いてくる。 その姿を認めた瞬間に、鏡台に飛び付いて、鏡で口元について乾いた涎と隅についた目くそを拭って、とびきり濃い口紅を引いた。 湿った生臭い暑さに湯だってしまいそうになりながらも歩を進めると、額から鼻のとんがりにまで伝った汗が、歩くたびに左右に揺れた。重い一歩を引きずって、また地を踏むと同時にぱたぱたと汗が地面に落ちていった。 下駄の足音が近づいて来る、前をみやると小さい女の子が、両手をしなるように振って走って来た。 少名、小さい小さいその子はもつれそうになりながらも笑顔で走り、そして俺の胸に飛び込んできた。 俺は彼女の頭を両手で抱きすくめて、乱暴に髪を掴んだり引っ張ったりしてやった。彼女も痛がる様子も見せずに、俺の臭いを身体に染み付かせるように頬を胸元に、擦り付けている。少名は手探りのまま俺の中に見えない何かを探している気がした。 しばらくお互いの存在を確かめあった 扉の内側でうつむいて、側に立っていた彼女が、こちらを見上げて、俺の袖口をつまんで引っ張った。俺はひざまずいて、彼女の視線に目を合わせて、彼女の唇を食むように重ねた。ふっふっと早い規則で彼女の鼻息が側索さ頬を撫でる。歯を舌でなぞると少し眉をひそめられた。気にくわなかったのか突然、舌を絡めさせてきた。 瞬間少し湿った女の匂いが鼻を掠めた、それはまた岩陰にひそむ獣のように子供くさい彼女の甘い乳の匂いの中に溶けていった。 最近ふとした瞬間に少名から、こういう匂いが漂うことが多くなった。大人の真似ごとをして、どこかから手に入れてきた紅を引いて、着物につけようとしてくる。その拙い所有欲は、確かに俺の心を捉え染めていた。 一幕終えた後には、すでに夜が冷め、葉のささめき合いが風に乗って聞こえる。胸に被さった柔らかい髪を手持ち無沙汰でいじりながら、目線を伸ばして障子の隙間を見通した。暗い間にはいつもの通りに赤い目がこちらを覗いている。
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永遠亭で過ごすようになった○○。 彼は幸せである。 朝、○○は息苦しさと圧倒的な快楽で目覚める。 永琳によって彼は口腔を嬲り尽くされ、同時に彼女のさらに奥へと誘われる。 寝起きの身体に我慢は出来ず、そのまま○○は永琳の胎内へ本能のまま放つ。 彼の身体に解放感が走り抜け、倦怠感に身体が支配される刹那、再び彼女によって獣欲に火を灯される。 ○○は永琳を抱く事によって、彼女へと己の存在を刻む。 彼自身を何度も何度も叩き付けるように、抑えの効かない劣情を彼女へとぶつけ続ける。 永琳は、彼の望むままに抱かれ犯され汚され貪らせて、その度に彼を優しく包み込む。 その中で彼女は、○○の身体も心も魂も存在そのものも、彼女へと浸食させて行く。 久遠の時の中で永琳という存在を忘れさせない様に。 二人は部屋に籠り切りで食事を取る。 二人の食事風景は、肝の据わったてゐですら目を背ける程の光景が広がる。 ○○が横から永琳の胸に抱かれる態勢で、食事は始まる。 永琳が毒見を兼ねて食事を口にし、安全を確認しつつ噛み砕いた後、口移しで○○へと与える。 口が重なっている間は舌を絡めながら、その味と繋がりを楽しむ。 時折、狂おしく口を塞ぎ互いの舌を絡め、混ざった唾で喉を潤す。 互いの食欲と色欲への渇望が満たされるまで、二人だけの狂宴は続く。 ○○は普段、屋敷から出される事は無い。 唯一の例外は、永琳と共に薬を卸に人里へ向かう時に外出する時だ。 強制的に連れ出されると言った方が正しい表現だろうか。 姫様や鈴仙やてゐ、他イナバの誘いから遠ざける為である。 永琳は必ず○○の腕を取り、その肩に顔を寄せ恍惚の表情で並び歩く。 人里に到着すると彼女は、全ての女の動向をつぶさに油断無く観察する。 彼に近寄る女は居ないか、永琳の意識は研ぎ澄まされる。 行き過ぎた警戒をする永琳の気苦労は絶えないが、その顔は淀んだ誇りに満ちている。 夫婦は常に一緒の存在であると、彼女は強く深く妄信している。 永琳だけが○○の服を洗濯する。 まず洗う前の彼の服全てに顔を押し付けて匂いを嗅ぐ。 そして必ず二人の服を一緒に洗う。互いの匂いを混ぜ合わせるように。 ○○の服も全て永琳が直す。彼女の長い髪を糸にして。 洗濯や裁縫を行っている彼女の顔は、実に幸せそうに見える。 彼への狂的までの独占欲が、近づき難い異様な雰囲気を漂わせているのだが。 風呂へも必ず二人で入浴する。 ○○の着ている服は、永琳がゆっくりと一枚ずつ丁寧に脱がせて行く。 また、永琳の着ている服も○○が脱がせる。 浴室に移るなり、激しく口づけを交わし互いの口腔から清めていく。 ○○の舌が永琳の口から解放されると、唇をなぞり首筋へと這わせる。 切り返して下り、鎖骨を優しく撫でた後は、腋に顔を埋めて舌の腹でねっとりと撫でる。 それから主張の激しい膨らみへと進み、ほのかに色づいた先端の周囲を何度か回り焦らす。 身体の鼓動がより大きく伝わり、切ない息遣いが漏れると同時に乳を吸う。 少しの間甘えつつ柔らかさを堪能したら、お礼代わりに舌で乳首を突き、転がし、嬲り尽くす。 名残惜しく先端にキスをして油断させた所で、もう一つの乳房に思い切りしゃぶりつく。 再びたっぷりと甘えた後、今度は胸の谷間に顔を埋め、そのまま下へと舌を伝わせて行く。 臍の周りをゆっくりとくすぐり、下腹部に頬ずりをする。 それを合図に先程から濃厚な女の匂いを発し続ける場所へと誘われ、そこを口で塞ぐ。 その割れ目を舌で押し開き、奥から溢れ続ける淫らな果汁を掬い上げて啜り、吸い上げる。 嬌声が上がり、女は男の頭をそのしなやかな太腿で強く抱く。 互いの存在を感じ激しく揺すり合い、雌が身体を大きく仰け反らせ、雄は吹いた潮を口付けて全て飲み、その脱力した身体を駆け上がる。 そして欲望で膨らんだ己の象徴を、無防備に晒された雌の胎内へと有無を言わさずに突き立てる。 胎の奥までしっかりと咥え込ませ腰を打ち付け、奥へと誘う雌の身体を可愛く想いながら、雄は快楽を貪る。 それこそ、女が望んでいた事と気付かないままに。 互いの体液に塗れ互いの色を混じり合わせて、心身へと染み込ませながら。 夜は夫婦の時間が優先される。 退屈を飽かした姫は、外に出かけて殺し合いで発散する。 遠慮がちな弟子に心配は無く、狡猾な兎は先の事を考え損得を計る頭がある。 つまり○○と永琳は周囲を憚る事無く、子作りを出来る環境にある。 そして、○○も永琳も子供を欲している。 きっと、二人の間に子供が生まれたならば、この異常な環境も少しはマシになるかもしれない。 蓬莱人が『後継者を必要としない存在』である事に○○が気付くのはいつの事だろう。 だが気付いたとしても、この鎖を○○は断ち切る事は出来るだろうか。 愛おしい妻の切実な想いなのだから。 永遠亭の縁側で永琳に膝枕された○○が、耳かきをされている。
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タグ一覧 ナズーリン 一輪 慧音 権力が遊ぶときシリーズ 阿求 「……ああ、何かきやがったな」 寺子屋の窓から何気なく外を見やった上白沢の旦那は、穏やかな外の様子にも関わらず、1人愚痴るような声を出してしまったが。 「どうした……ああ、あの人力車。稗田のだな」 妻である慧音も、疑問に思うような声は始めだけで。人力車がいきなり寺子屋に乗り付けてきたのを見れば。 そんな高級品をそんな使い方が出来るのは、ましてや上白沢慧音相手に。稗田阿求以外には思いつかない。 幻想郷の神様なら、洩矢諏訪子もそうだけれども。意外と目立つのが好きだから、往来を堂々と歩いてくる。 「誰も降りてこないな」 上白沢の旦那が渋い顔を浮かべたままでいると、慧音がまた声を出してくれた。 人力車からは確かに降りてくる気配は無い、引いてくれる人足夫が足早にこちらに向かうのみ。 懐に手を入れたかと思えば、手紙を取り出した。 「用があるのはどっちだろうな」 上白沢の旦那がそう呟くけれども、彼だってうすうすわかっている。かなりの確率で自分を迎えに来たのだと。 そう、稗田阿求が。また何か、稗田○○に依頼が舞い込んだから。相棒役である自分の登壇を。 願っていると言う態度はとっているけれども、その実態は命令だ。拒否権は存在していない。 稗田阿求が慧音と、何事か相談をしたいのならば。もう少し隠れようと言う意思がある。 慧音の妻となって、そんなに短いわけでもない。それぐらいの空気の違いぐらい、彼だって理解を深めている。 「まぁ……どっちでもおかしくはないが」 慧音もあいまいな態度を口では表現しているが、苦笑しながら夫の方を見ているのでは。 演じているにしても、上手くいっていないと言うほかは無い。 慧音も気付いているのだ、稗田阿求の考えている事が。 自らの演出する舞台に、稗田○○の為に、相棒役をまた必要としているという事が。 ――とは言え、以前よりは稗田邸に。○○の下へ向かい、依頼に巻き込まれることを嫌だとは思っていなかった。 ○○の事が心配だからだ。 ○○は、そしてその妻である稗田阿求も。前回の事件の事は、内々に実行犯を『事故の形で処理』したことから。 酷い話だが、ありふれた物なので世間一般にはもう既に、忘れ去られている事もあり。 稗田夫妻はともに、稗田○○が横領被害を受けたと言う事実を。 知っている者からすれば、不気味なほどに話題にはしない。 それは部外者のいない、稗田夫妻と上白沢夫妻だけがいる場でも。時折1秒程度の、無音からくる緊張感で張りつめるだけで。 努めて――そう、努めてだ――依然と同じ雰囲気を保っていたし。 それは成功していると言えよう。我々は知っているからどうしても、問題になってしまうだけなのだ。 稗田夫妻の仲に一切の変化は無い。横領被害の事をお互いが話題にしたがらないのも、仲の良さの証拠として挙げられる。 ――だが、何かが変化した。確実に。 依頼に巻き込まれることを以前ほど嫌だと思わない理由は、もしかしたら、この何かを確認したいからなのかもしれない。 「失礼いたします」 稗田家の奉公人らしく、所作は美しく。されども稗田阿求からの勅命であるから、断固とした意思を持って。 稗田家から使わされてきた勅使は、寺子屋の中に入ってきた。 ふと、上白沢の旦那は壁の時計を見る。まだ昼休憩の時間が始まってすぐであった。 一応は、稗田阿求も気を使って。手が空いているであろう時間を狙ったのだろうか。 ……そう思う事にしてやろう。 「上白沢の旦那様に、九代目様よりお手紙です。この場で中身を確認してほしいとの事です」 「ああ、やっぱり」 稗田阿求からの勅使は迷うことなく、上白沢の旦那の方向に歩いてきた。 有無を言わせない態度で、稗田阿求からの手紙を突き出してきたが。相変わらず所作に関しては美しかった。 それが一層、断固とした意思を強調させているし。信仰心の高さに身震いすら覚える。 黙って受け取るしかなかった。 勅使はこちらが手紙を受け取っても立ち去ろうとはしなかった。むしろ、待っていた。 あの人力車で連れて行くつもりだろうかと思いながら、手紙の中身を検めると。書かれていたのは次の無いようであった。 暇であろうともなかろうとも、来なさい。新し依頼を○○が受けるでしょうから 稗田阿求 ここまで威圧的な文章を、思いつくどころかよくぞ届けれるものだ。 「ははは……」 乾いた笑いが混みあがってしまった。 ただし、これでも抑えた方である事は、声を大にして言いたかった。 本当ならもっとあからさまに、口の端っこでも吊りあげたりして、不快感を示すのが普通だからだ。 そうしなかっただけ、褒めてほしかった。 「内容は?……ああ、なるほど」 横合いから慧音が覗き見たが、慧音の方の反応も、はっきり言って芳しくは無かったが。 「まぁ、仕方ない」 一線の向こう側である慧音は、阿求の感情に寄り添っていた。 「行ってやれ」 苦笑交じりであるが、慧音は自分を送り出した。 少し寂しさと言う物は感じ取ったが。 ふと、嫌な思いつきをしてしまった。稗田阿求と言うか、阿礼乙女は体が弱いのが常だから…… つまり、早々長い間、これに付き合わされるわけではないだろうと言う。 本当に嫌な想像である、思いついた自分自身に不快感を抱いてしまった。 「そうだな、○○が待ってる」 嫌な想像を振り払うように、上白沢の旦那は。稗田阿求が逃がさないとはいえ、新しい依頼に首を突っ込むことにした。 ただし、稗田阿求の手のひらの上にいる事を努めて忘れたかったから。待っているのは○○だという事にしたかった。 最も、どっちでも構わないだろう。 稗田家の奉公人にとっては自分がこの手紙を見て、首を縦に振る事こそが重要なのだから。 「それでは、稗田邸にお連れ致します!人力車へどうぞ、お乗りください」 事実、○○の名前を聞いたこの勅使は。少しばかり色めき立つのを隠せなかった。 稗田阿求が演出して、多分誇張もしているとは言え。○○は名探偵の看板を掲げられているのだから。 稗田家の、稗田阿求の信者であるならば。その夫である名探偵○○の支持者になる事が、義務とも言えるのだから。 1つ幸いな事を上げるとすれば、奉公人達はそれが義務であることに気づかないうちに、義務を果たしている事だろう。 本人は幸せそうだから、この夢は覚めない方が多分、誰にとっても損をせずに済む。 ナズーリンとしては、やりにくいことこの上なかった。 秘密裏に稗田阿求と接触して、稗田○○に依頼をすることの許可を得れた。ここまでは良かった。 けれどもどうにも、回り道を何度も強いられているような気配。それだけはどうしても否定できないし。 そもそもの部分で、こんな事をやっていて良いのだろうかと言う、意味や価値の有無では無くて、罪悪感が強くあった。 罪悪感を特に感じる時は、回り道を強いられていたり、待ち時間が必要であるにもかかわらず、その間に何もできずに待つ事しか出来ない時などだ。 つまるところ、今まさにそういう状況に陥っている。 一応自分は、命蓮寺とはそこそこ以上に懇意にしているし。命蓮寺の生きるご本尊である寅丸星が主ではあるが。 懇意止まりだと言うのも認識している、命蓮寺にはたびたび足を運ぶし、実は自分の部屋も用意されているが。住居は別にある。 それでも聖白蓮、彼女は少し甘いから。感情のもつれから発生する―まだ発生していないが、時間の問題だと認識している―問題は。 良し悪しはどっちにもあるけれども、内部である聖よりも、外部である自分がお節介を焼く。 そちらの方が、命蓮寺内部のわだかまりになりにくい。 ……そう、マミゾウ親分にも話をして。始めは彼女に協力してほしかったのだが。 『稗田○○に頼めばいいだろう』そう言われたっきり、つまり逃げられたのだ。 ――――分かっている、雲居一輪は一線を超え始めたからだ。だから稗田○○の名前をマミゾウは出したのだ。 「お茶のお代わり、いかがです?ナズーリンさん」 「え、あ、いや」 「ああ、阿求。ついでに俺の分も頼むよ」 罪悪感と、一線の向こう側を探らねばならぬ緊張感から。ナズーリンはお茶の進みが早くなってしまったが。 正直、稗田阿求から施しは受けたくなかった。彼女は一線の向こう側の中でも、特に向こう側にたどり着いているのは。 これは、事情通の間ではもはや常識の問題として機能していた。 ……マミゾウ親分も事情通なのだがな。はなから逃げに徹されるうえに、稗田○○に頼めと言われた事は。 正直、少し恨みたいぐらいの気持ちだ。 稗田○○に関わるという事は、必然的に稗田阿求ともかかわらねばならない。でなければ、命が無い。 揺り戻しなのかもしれないが、稗田○○が妻である稗田阿求に比べて、穏やかで優しいのも。 実を言えば、救いにはなっていない。スイカに塩を振るかの如く、より強調されるだけの始末なのだ。 今のこれだって、稗田○○はまごつく自分を見て。気を使って、自分もお茶を飲み干して。 あくまでも稗田阿求は、自分のついでにナズーリンにもお茶をくれたと言う体を作ってくれた。 確かに、稗田阿求にお茶を汲ませると言うのは、かなりはばかられる行為だ。 夫である、そして稗田阿求がもはや狂わんばかりに愛している、稗田○○を除けば。 だから、緊張で縮こまっている自分を見て、少し助け船を与えてくれたつもりなのだろうが。 残念ながら、助かっていない。 しかし稗田○○は、何を考えているのか。少しばかりの微笑を浮かべながら、こちらを見るのみである。 「よう、○○。待ったか?」 二杯目のお茶を、礼儀として少しだけ口を付けて、また無為に時間を過ごしていたら。 ようやく役者が、上白沢慧音の夫が、稗田阿求が稗田○○の相棒扱いしている男が来てくれた。 これでようやく、話が進んでくれそうであった。 「ああ、これで話が出来る。君にも聞いてほしかったんだ」 稗田○○は、ナズーリンに向けるよりも更に嬉しそうな顔を浮かべた。この顔で一番安心したのは、実はナズーリンであった。 よそ様向けの顔であるなら、稗田阿求も激昂しないであろうから。 「ナズーリンさん」 何をどう話そうかと、ナズーリンが頭の中で話を整理し始めた折。稗田○○は、はなから用意していた物を読むように。話を始めた。 「恐らく、貴女の中に有るのは罪悪感だ。今回の調査依頼が、命蓮寺と言う看板を外して、ナズーリンさん個人からの依頼である事からも、それは表れている。 それから、私の友人である上白沢の旦那さんを待つ間、話は出来なかったけれども。 その間に何度か、ナズーリンさんはこちらと目が合いましたが……他の依頼人から感じる、請い願うような態度は見えなかった。 それよりも、疑問。自分が行っている事は、果たして正しい事なのか、実は自分は余計な事をしているのではないかと言う疑問があった。 その疑問は、罪悪感という感情も呼び起こした。 唇を噛んだり、ため息のような吐息、うつむき加減の仕草などまるで叱られている子供のようでしたよ」 ○○の独演会に、上白沢の旦那は『また始まった』と言う困った笑みを見せているが。 稗田阿求はナズーリンに対して「それで?どうなんですか?」答え合わせをしろと言う圧力をかけてきたが。 もし間違っていたらどうするつもりだったのだ、この女は。事件ごとなかったことにしかねないのが恐ろしい。 「それから」 だが、○○の独演会はまだ続いた。幸いにも先の言葉は、まぁまぁ当たっていたので。 今回もごまかしがきく程度の言葉である事を、ナズーリンは強く望んでいた。 「ナズーリンさんの懸案は、恐らく雲居一輪か村紗水蜜。このどっちかだ」 「雲居一輪の方だ」 だが今度の○○は、より突っ込んだ話を始めようとしていた。慌ててナズーリンは答えをこの場で明示した。 さっきから稗田○○の口数が多い事にナズーリンは。何か嫌な事でもあったのだろうか?と勘繰らずにはいられなかったが。 稗田阿求の手回しが素晴らしく、事情通にすら先の横領被害の事は隠し通していた。 何も知らないナズーリンは恐々とするのみであるが、事情を知っている上白沢の旦那は心配になってしまう。 やはり、○○が人を相手に銃すら使う事になったのは。確実に、○○の精神状態に何らかの影響を与えていた。 「不思議ですね、○○。なぜそこまで当てれたのですか」 しかし稗田阿求は、○○の言葉がズバズバと、正鵠(せいこく)を得ている事に気を良くして。 先ほど指摘した、ナズーリンの罪悪感の事はすっかりと、本人からまだ聞いていないのに、当たっていたことになってしまっていた。 最もこれを指摘できる存在が、どこまでいるかは疑問である。 思わずナズーリンは上白沢の旦那の方を見たが、彼は申し訳なさそうな顔を浮かべて。 「色々あったんだ」 こう言うのみであった。○○の機嫌が悪そうな事に、何かがあったからと言うぐらいしか教えてくれなかった。 「命蓮寺の構成員は、聖白蓮、寅丸星、村紗水蜜、雲居一輪が正式な面子だ。これでも周辺の事は調べていましてね。 ナズーリンさんとマミゾウさん、それからぬえさん。これらは懇意にはしているが、信者では無い。 常日頃から、戒律に縛られずに生きていますから、何かがあったとしても何を今更程度の話ですよ 飲酒も、肉食も、あるいは……遊びにしたって」 遊びと言う部分で、○○は少し言葉を区切って。言いにくそうにしていた。 ナズーリンにも、マミゾウに関しては思い当たる節があるからだ。 配下のタヌキを連れて、またマミゾウの配下であるから可愛い演技もお手の物だ。 遊郭街でたまに、動物喫茶みたいなことをやって小銭を稼いでいるのを聞いたことがある。 極めて特殊な客商売を行っている遊女たちからは、可愛い物に飢えているから。 次はいつやるのかと聞かれて、大層人気があるそうだ。 また本業である金貸しの場としても、遊郭街は最大の需要を持つ空間だ。 恐らく稗田○○もその事は知っているから、言葉を言いにくそうにしていたのだろう。 だがナズーリンに出来る事は、そこを突っ込まない事のみであった。 「……まぁ、否定はしない。私も本来の住居は命蓮寺の外にあるからな」 「だからこその罪悪感でしょうね。それに初めから一輪さんと水蜜さんに限定したのは、このお二方は、戒律に対してしばしば無視するような行動がありますから もしも寅丸さんや聖さんに何かが合ったら、表には出したくないでしょうから、皆さんで解決しようとします しかし一輪さんと水蜜さんは、たまに戒律を無視して飲酒や肉食にふけりますが、それだって聖さんが解決しようとする。 ではなぜナズーリンさんが?恐らく、雲居一輪さんがいきなり真面目になったんでしょうね。そこに厄介の種があるんだ」 「何で当てれるんだ?」 段々とナズーリンは、稗田○○の方も怖くなってきた。 稗田阿求から狂わんばかりに愛されているから、稗田家の持つ力も利用できるし。 稗田家がただの名家だとはナズーリンも思っていない、諜報能力だっていくらかはあると知っている。 それを使ったとしても、妙に知っているなと言うのが実際の感想である。 「たまたまですよ。馴染みの喫茶店に行くがてら散歩していた時、マミゾウさんが仲のいいぬさんと水蜜さんを連れて、遊びに出かける風でしたから。おかしいなと思って。 水蜜さんなら、不良仲間の一輪さんも誘うはずだと思って、ずっと引っかかっていたのですよ。 それからあまり時間を置かずに、ナズーリンさんが来られましたから。一輪さん絡みかなと」 「……1つ頼みがある。この事は、可能な限り内密にしてくれ。マミゾウ親分は知っているが、めんどくさがって協力してくれないんだ」 厄介そうとは言わなかった。言葉尻には気を付けねばならない、目の前には稗田阿求がいる。 「もちろん。さぁ続きをお話し下さい」 「雲居一輪には、今、意中の男がいる。けれどもこの男が問題なんだ」 「良くある話ですが、雲居一輪さんはどうやら少し真面目になったご様子。真面目な姿が受けるのでしたら、厄介そうな男には見えませんが」 「少し、悪趣味な表現をするならばね。あの男は、稗田○○の頭を少し悪くしたような存在なんだ。その上、優しすぎて何もかもしょい込む」 ナズーリンからすれば、もっと言いたい事は合った。 稗田○○と違って、一番の厄介――つまり稗田阿求――と手を組んで遊んで、なだめる才能が無い。 けれども真面目だ、仕事には遅れないし率先してやってくれる。それを非難する事は出来ない。 そう、その優しさが複数の厄介をしょい込んだ!けれどもしょい込む原因は、善意からの手助け!非難すればこっちが非難される。 だからあの男は厄介なのだと、そう、言い切る事が出来れば。どれほど胸がすくかとも考えるが。 こちらの胸がすくと同時に、激昂した稗田阿求から、脳天に火箸を突き刺されかねない。だから、言えないのだ。 感想 名前 コメント
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その日、上白沢慧音は里の外れへと向かっていた。 用件は、○○への仕事の依頼。 戸を叩き、案件を告げる。 今回は相手が手強く、○○には少々荷が重い。 それを告げると、彼は退治屋としての目付きに変わる。 それはいつも以上に気迫を感じさせるが…。 “今のは…?” 彼が気迫を纏った時、一瞬だけ彼女が感じ取ったのは、紛れもない『妖気』。 それを人間である○○が放つ事は、まず有り得ない筈。 “いや、今はそんな場合じゃない。” 「相手は手強いが、頼んだぞ、○○。…いいか、必ず生きて帰ってくれ。」 「…ああ、元よりそのつもりだ。」 疑念を振り払い、慧音はその背中を見送る。 もう、自分の知る彼がいなくなるような。そんな予感と共に。 敵は多勢だった。 そして中心にいるのは、中位程度の力を持った人型の妖怪。 下級を専門とする彼には、圧倒的に分が悪い。 だが、それでも刀を握るしかない。 生きる為に。 生きて、またはたてと共に笑う為に。 「おおおおおおおおお!!!!!!」 咆哮と共に、血まみれの戦が始まった。 負傷しながらも、何とか雑魚は全て片付けた。 残るは一匹。 実力は彼より上だが、覚悟は決まった。 “ドクン…” そこに、以前と同じ動悸。 抗いがたい衝動を無理矢理に押さえ、刀を杖代わりに身体を支える。 「ぐ…!!ぜえ…ぜえ…」 「大した根性だなぁ、坊主。 まさか俺一人になるとは、腐っても半分って事かぁ?」 「半分…何の事だよ…?」 ぐらつく意識の中、切っ先を敵に向ける。 戦闘中から異常には襲われていた。 血が騒ぎ、そして速く動けた。 猛烈な目眩を感じてはいたが、それでも雑魚を倒せたのはそのお陰ではあり。 「いや…その様子じゃ、お前は後からって所か。ひひひ…うっかり俺らの肉でも喰ったか? 退治屋様が妖怪の出来損ないなんて、ざまあねえなぁ…。どうだ、腹が減ってしょうがねえだろ?」 「なっ…!?」 突然の宣告。 しかしその言葉で、今までの異常が点と線で繋がって行く。 「そんな…まさか。」 「心当たりアリって所かぁ?まさかも何もねえよ…さっきから匂うんだよ、俺らと同じ匂いがさぁ。 ひひひ…これ程面白い事もねえ。お前は“自分の宿命”を、知らねえんだもんなあ。 斬ってみろよ坊主…斬って俺を喰えば、“お前も俺の仲間”だぜぇ? さあ…来いよ。」 「黙れ…黙れええええええええぇ!!!!!!!!!!!!!!」 一閃。 妖怪の首が飛び、鮮血が辺りを赤く染める。 妖怪は抵抗の素振りすらすら見せず、撥ねられた首は不吉な笑みを浮かべたままだった。 「はぁ…はぁ…あ、ぐ…!!」 死体の山を確認した瞬間、先程以上の猛烈な渇き。 気付けば妖怪は解体され、彼の手には肉が握られていた。 “ダメ…だ…これを口にした…ら…。” 片手に握った刀を、何度も自らの足に突き刺す。 しかし、それでも手は止まらず。 口内に感じた血肉の味を最後に、また彼の意識は途切れた。 夢を見た。 12歳の夜に似た、何かに襲われる夢。 だけど、そいつらの手には武器が握られていて。 鍬、鎌、鉈。 涎を垂らしたあれは妖怪じゃなくて…人間? 腕には誰かを抱えている感触があった。 女の子? 何故? 人間達がこっちに近付いて来た。 武器を降り下ろそうとしてる。 狙ってるのは…腕の中の女の子。 何でだ。 この子は息も絶え絶えだ。おい、待て。 やめろ… 「やめろおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 叫び声で目が覚めた。 視界はぼやけているが、あの時と同じで、自分の家で目覚めた事は解った。 落ち着きを取り戻すと、異様な倦怠感と熱が身体を襲う。 拍動は速く、呼吸も乱れていた。 すると、頬にひんやりとした手が触れる。 霞んで上手く見えないが、この感触には覚えがあった。 「はたて、か…?」 「…うん。」 小さな肯定の言葉。 “ああ、また生きて彼女に会えたのだ”と、俺は少しだけ安堵を覚えた。 ただ、それも多分最期なのだと。 自身の体調から、俺は感じ取っていた。 俺はきっと、妖怪になるのだろう。 あの妖怪は、恐らく先代のこの家の主だ。 最後には妖怪になるのが退治屋としての宿命なのだと、今更になって気付いた。 …いや、妖怪は精神に依る生き物だ。 歪な精神の俺では、きっと妖怪ですらない化け物に変わってしまう。 そうなれば、俺は最早俺では無い。 はたてと共に生きる事も叶わず、そして死んだも同然だ。 理性の無い化け物など、人からも妖怪からも嫌悪され、封印されるのが関の山だ。 「…はっ。」 そう思うと、笑いが込み上げて来た。 化け物。 今までの俺と、一体何が違うのだ。 妖怪を残忍に殺し、人からは疎まれ、血煙の中で笑う。 はたてと共に在れた時間こそが、きっと奇跡だったのだ。 何も変わらない。 悲しさも怒りも捨てて、より相応しい形になる。それだけだ。 「…はたて、もうお別れだな。自分の身体の事ぐらい…自分で解る。 今日斬った奴が言ってたよ…俺はもう、妖怪になるんだと。 まあ…俺じゃあ妖怪未満の化け物だろうが…な。」 「……。」 はたては何も言わない。 こいつは天狗だ。 俺がどうなるのかぐらい、見当は付いているのだろう。 「だからさ…もし俺がその通りの化け物になったら…殺してくれ。最期の頼みだ。」 随分と身勝手だと思う。ただ、今の望みはそれだけだ。 もう共に生きられないのなら、せめて、はたての手で。 はたては手を伸ばし、俺の傍らから何かを手に取った。 眼前に細い影が見える。 ぼやけた視界でも、それが何かはすぐに解った。 俺の愛刀。 呪縛でしか無かった、その刀身。 ああ。 今、殺してくれるのか。まだ俺の理性があるうちに。 やっぱりはたては優しい。 手を伸ばし、はたての頬に触れる。 この温もりも、きっと最期だから。 「はたて…最期にお前に会えて良かった。」 触れる指に、彼女の瞼からこぼれた雫が触れた。 ごめんな。予定よりもずっと早く、お別れだなんてな。 いっそ俺が妖怪に生まれていたなら、どれ程良かったろう。 そしてはたてに出会えていたなら、きっと俺は…。 …やめだ、今更何が変わる訳でも無い。 彼女の左手が、頬を撫でた。 右手には、刀が握られている。 「…大丈夫だよ、○○。」 優しい声。 ぼやけた視界でもはっきり解るほど、切っ先が近付いた。 左手は、俺の頬に触れたまま。 「そんな風には、あたしがさせないから。」 直後、真っ赤なモノが視界に触れた。 ____それは、彼女の手首から流れたものだった。 “くすくす…長持ちするかと思ったけど、あの子も引退かしらね。 まあいいわ。まだ少し頼りないけど、『次の○○』は、もう育っているのだから。 彼には呪われた役目を与え続けたのだから、最後のお膳立てぐらいはしてあげなくちゃ。 そうね…燃え上がる恋には、ドラマが付き物だもの。” 『彼女』が色彩の境界を操ると。 その髪は鮮やかな金色から、艶やかな黒髪へと姿を変えた。 あくまで人間を装い、通りを歩く。眼前には、里の男が一人。 「ちょっとそこのお方、大変よ!!あの退治屋が…」 はたての手首から血が流れる。 口内に、鉄の味が広がる。 抵抗を覚える心に対して、身体はその血を欲する。 喉の動きは止まらず、次々に体内へと吸収されていく、はたての一部。 「が…はぁ…あ…。」 ようやく出血が弱まる。 大部分の血は、既に俺の体内へと流れ込んでいた。 「はた…て…何を…。」 「何って…○○を助けるためだよ? 大丈夫、これで○○も妖怪になれるから。」 「…!!」 衝撃。 はたての口から告げられた言葉は、それに尽きた。 妖怪になる? まさか…まさか!! 「あ、もしかして今頃気付いた?遅いよー。 あんたが怪我した時に薬草を使ったって言ったけど、あれは嘘。 本当は、今みたいにあたしの生き血を飲ませたんだよ? あれから順調に妖怪になってったみたいで安心したわー。 思ったより早かったけど、愛の力ってやつかしら?」 確かに変調は、あの大怪我の日が起点だった。 はたてはからからと笑っている。 俺が全てを話した夜と同じ、異様な空気を纏い。けらけらと。 「何故…だ…?」 「だから全部○○の為だってば。 いい?あんたが妖怪になれば、退治屋ではいられなくなるでしょ? それに、ずっとあたしと生きていける。良い事づくめじゃない。 …だって、あんたがいない世界なんて考えられないもの。 ○○が苦しんでる所は、もう見たくないの。」 「はたて…お前は…。あ!?ぐ、う…」 心臓が止まるかと思う程の、強烈な拍動が俺を襲う。 呼吸が上手く機能せず、身体は熱を増す。 体内の隅々が、何か別の物であるかの様に蠢き、次第にめりめりとした肉と骨の躍動が聞こえた。 「あ…が…はたて、離れ…」 このままでは、はたても危ない。 しかし。 警告を口にする前に俺に重ねられたのは、はたての唇で。 「大丈夫。○○なら、化け物にはならないよ…。 もう、独りにはさせないから。」 そっと彼女の両腕が俺を包み、耳元に響いた言葉。 「あ…あああああああああああああああ!!!!!!!!!」 直後、背中に肉が裂ける痛みが走る。 思わず力一杯に叫んでいた。 それは苦痛からなのか、それとも生命としての咆哮なのかは解らない。 「はぁ…はぁ…」 身体が焼ける感覚の後、呼吸が落ち着きを取り戻す。 やがてぼやけていた視界も徐々にはっきりし、熱が引いて行く。 身体の一部が増えたかのような感覚。 背中を見れば、翼が一対生えていた。 はたてと同じ、真っ黒な鴉の翼が。 「はは…マジかよ。本当に人間じゃなくなっちまった…。」 思わず出た感想は、自分でも拍子抜けした物だったと思う。 これからどうなるのか。 そんな事も考えたが、今はそれよりも大事な事があった。 「…はたて。 まさかあの時あいつらをけしかけたのは、お前なのか?」 そもそも不自然だった。 “自分の居場所は、誰かが垂れ込んで知った。” あいつらはそう言っていた。 最初に疑念が浮かんだ時、信じたくはなかった。 だけど、俺の行方を追え、且つ妖怪に声を掛ける事が出来る奴など、一人しかいない。 「…うん。あたしが、けしかけたの。」 静かに紡がれたのは、肯定の言葉。 心は決まった。 “ザクッ!!” 「え…?」 刀を奪い、はたての頬を掠める様に壁に突き刺した。 嘘をつかれた、陥れられた怒りもある。 だけどそれよりも、ずっと許せないのは… 「…何で、俺に嘘をついてまでそんな事をした。 何で自分を傷付けてまでそんな事をした!! 妖怪にされた事は、今更どうにもならねえ。 どの道俺が辿っていた運命かもしれない。 けどな…。嘘をついて、あまつさえ自分の体まで傷付けて。それは黙ってられねえ。 俺が一番見たくなかったのは…お前が傷付いてる姿なんだよ!!」 「…!!」 ただ、悲しかった。 はたてに嘘をつかれた事も。 彼女が自分の為に、手首を切り裂いた事も。 何より、憎かった。 はたてにそこまでさせてしまった、自分の脆さが。 「あたしは…ただ、○○を助けたくて。 あたしは…あ…あぁ…。」 彼女の瞳から、涙がこぼれた。 手を伸ばし、その涙を拭う。 そのまま、そっと彼女を抱き締めた。 「…覚えてるか?あの夜の事。 あの時、俺が全部を話した夜だ。」 思い出すのは、あの夜の事。 はたてが、俺の為に自らの掌を傷付けた日。 「あの時な、思ったんだよ。 もうお前には血を流させたくないって。 いつかは里から逃げて、お前と生きて行きたいって。」 「……。」 彼女はただ、腕の中で泣きじゃくる。 その肩は、とても小さなものに見えた。 「人である事からは、ずっと逃げられないと思ってた。 俺が俺でいる限り、ずっとここに縛り付けられるんだって思ってたよ。 はたて、ごめんな…またお前に血を流させた。 …結局、また八つ当たりだ。 元はと言えば、そうさせちまったのは俺の方だ。 だけど、もう俺なんかの為に自分を傷付けないでくれ。頼む。」 「あ…ご、ごめんな…さい…あ、ああああああああああああああ!!!!!」」 小さな嗚咽が、やがて大きな泣き声に変わる。 俺ははたてを抱き締めたまま、口付けを交わした。 二度と傷付けまいと。 いつか、彼女を守れるようにと。 そう自分に、誓いを立てて。 互いの涙も乾き、俺は片腕に彼女を抱き寄せたまま、壁にもたれ掛かっていた。 「…さて、これからどうしたもんかね。」 現実として、これは急を要する問題だった。 妖怪になってしまった以上、俺はもう退治屋は廃業な身だ。 里の奴らに見付かれば、どうなるかは想像に難くない。 「取り敢えずは逃げるとして…そこからは…。」 「いっそ天狗になっちゃえば? あたしと同じ翼だし、きっと烏天狗の血が濃いはずだから。 後からだと、キツい修行が要るみたいだけどねー。」 一人言に割って入ったのは、はたての声。 いつもの快活さも戻り、それに少し、安堵を覚えた。 「…そうだな。 ま、どうせお前と生きてくつもりだ。それも良いかも知れねえ。」 「ふふ…でしょー?大天狗様は何とか口車で…」 「はたて…?おい、はたて!!」 急に言葉が途切れ、はたての体から力が抜けた。 「ひでえ熱だ…おい、しっかりしろ!!」 先程撒いた包帯には、赤色が滲んでいた。 手首を切ったのだ、やはり血を失い過ぎている。 幾ら妖怪と言えど、すぐに回復出来る状態ではないのは明白で。 そうして彼女を横にさせた時。 「いたぞ!!やっぱり化け物になってやがった!!」 響いたのは、数人の怒声。 それが里の者である事は、すぐに解った。 見えたのは、斧、鋸、鉈。或いは、鍬や槍。 戸を突き破り、武器を構えた男達が飛び込んできた。 一同に、恐れと嫌悪を携えた表情。 その矛先は、俺とはたてへと向けられていて。 「前から化け物じみた奴だと思ってたんだ!とうとう本物になりやがって!! いいかお前ら、そいつはまだなりたてでロクに動けねえ!おまけにそこの天狗も弱ってる! 殺るなら今だ!!殺せええええええええぇ!!」 怒号と共に、振り上げられる凶器。 襲いかかろうと歩を進める、男達の姿。 それを見た時。 俺の脳裏には、さっき見た夢と、12歳のあの夜の光景が重なった。 まさに獲物を喰らって安心せんとばかりの、あの妖怪達の姿が。 …ああ、何も変わらないのだ。 あの妖怪達も、目の前のこいつらも。 そして、俺自身も。 恐怖を消し去る為か、飢えを満たす為か。 或いは、怒りの矛先なのか。 何かを追いやり己を満たす為、ただ自分より弱い者を貪り、蹂躙する。 安心を求め、都合の良い者に全ての汚れを押し付ける。 「お前らも、結局俺や妖怪と変わんねえのな…」 ただ、今の俺にも守る者はいる。 それすらも、喰い尽くそうとするのならば____ 刀を握り、数度斬りつける。 妖怪になりたてとは言え、烏天狗の血のお陰か。 随分と速く、その一連の動きを繰り出す事が出来た。 「あ…?」 一瞬の静寂の後、ぽろりと首が落ちた。 …とは言っても、それは構えられた凶器の首ではあるが。 「てめえらみてえなクソ共の血がこいつに掛かるのは、我慢ならねえからな。通せよ、邪魔だ。 もしこれでも変な気を起こすってんなら… ____その時は、殺す。」 「ひっ…!!」 はたてを抱きかかえ、押し黙る男達の間を通り抜ける。 まだ不慣れな翼で、俺は空へと飛んだ。 丘に降り立つ。 里の外れから火柱と煙が上がり、かつて住んでいた家が焼かれているのが解る。 はたてを自分の膝に寝かせ、俺はそれを淡々と見つめていた。 「…○、○?」 「起きたのか?まだキツいだろ、寝とけ。」 「ふふ…そうね、もう少しこのままがいい。」 まだ回復には遠そうだが、それでもはたては微笑んだ。 髪を撫でてやると、彼女はくすぐったそうに目を細める。 「…燃えちゃうね、○○の家。」 彼女は何処か寂しげに、遠くの火柱を見つめていた。 俺達も、あそこに思い出が無かった訳では無い。 その顔を見て、ふと感傷を覚えた。 「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いならぬ、妖怪憎けりゃ家まで憎い、って所か。よくやるわ。 アルバムぐらいは持ってこれりゃ良かったかね。」 「そうね…でも、思い出はこれからまた作ればいいじゃない? あんたもやっと自由になれたんだし。」 「…そうだな。」 しかし、結局はあの家も、かつての呪縛だ。 感傷もあまり意味は無いか。 煙が空へと昇り、炎が徐々に弱まって行く。 呪いの終わりを告げる様に、少しずつ、少しずつ尽きて。 ふと、今の自分について考える。 結果だけ見れば、俺はこいつの策略に嵌まっただけなのだろう。 ただ、手遅れだったとは言え、それでも生きていく事を選んだのは、最後は俺の意志だ。 俺は妖怪として、これからもはたてと生きていく。 それはきっと、彼女によって掛けられた呪い。 だが、それもかつてのものに比べれば、随分可愛らしくて自由な呪縛だ。 腰には、唯一手元に残った愛刀が差してある。 忌まわしいはずのそれも、今はそうじゃない。 運命を切り開いてくれたのは、紛れもなく、はたてとこの刀なのだから。 俺もはたても、狂っているのかもしれない。 だけど、本当に正常な奴なんてこの世にいるのだろうか? 少なくとも俺の見てきた世界には、そんな奴はいなかった。 何もかも狂っているのなら、二人で笑い飛ばしてしまおう。 例え、それが共に堕ちる暗闇だとしても。 「行こうか、はたて。」 「うん!!」 彼女を抱え、空へと舞い上がる。 何を見に行こう。 何をして笑い合おう。 これから先、大きな壁が現れても、きっと越えられるはず。 はたてが、側にいるのなら。 見上げれば、空には黄金色の三日月。 それは鋭くも、何処か暖かな光で。 12歳のあの新月の夜から、少しだけ時が進んだ気がした。 10年後。 青銀の髪を揺らし、一人の女が歩く。 そこは妖怪の山へと続く道。 その道を、何かを待つように彼女は進む。 「おい、そこの。」 一瞬の風切り音の直後、彼女の前に降り立つのは、鴉天狗の男。 その腰には、飾りの無い刀が差してある。 「山への女の独り歩きは感心しねえな。 たまたま俺が通ったから良かったが、この先は哨戒共がいる。面倒事が嫌なら、さっさと帰った方がいいぜ?」 「いや、それなら大丈夫だ。用なら今済んだからな。 里の若い退治屋が、妙な天狗に絡まれて稽古を付けられたと言っていてな。 あれはお前だろう?○○。」 彼女は優しく微笑み、天狗へと話し掛ける。 何か懐かしい者を見るような、そんな視線で。 「確かにあの退治屋のガキに稽古を付けたのは俺だが、生憎、それは俺の名じゃないぜ。 その名前の奴なら、10年前に火事で死んじまったろ? まあ、あのガキの剣は殺す事しか考えてねえ剣だからな、見てらんなかったのさ。」 うざったそうに髪を掻き上げ、彼はそれを否定する。 確かに人間としての彼は、もう死んでいるのだから。 「ふ…そうだったな。 あの時は、私も里の者達を止める事が出来ず、奴は焼き討ちにされて死んでしまった。 私がかつて面倒を見ていた子の一人だったからな。 結局最後まで助けてやれず、随分と後悔しているよ。」 「…そうか。まあ、恨んではいないと思うぜ? あいつは、ずっと望んでたからな。 押し付けられた役目から解放される事を。 っと、そろそろ帰らねえとな。 うっかりこんな所見られたら、カミさんが恐ぇんだ。」 「ふふ。まあ、女房が強い方が家庭は上手く行くと言う。 家族を大事にするのは、良い事だと思うぞ?」 「そいつはごもっともだ。あんたもさっさと帰りな。ぼーっとしてると夜になっちまうぜ?」 翼を翻し、彼は背を向ける。 「○○。」 そうして帰ろうとする彼に、女は再び声を掛けた。 「…お前は今、幸せか? 人である事も捨て、長い時を生きる身となっても。」 「……。」 天狗は振り返らない。 背を向けたまま、その質問にこう返した。 「愚問さ。 あいつと出会う前の方が、俺にはずっと長くて、孤独な時間だったよ。 …じゃ、気を付けて帰れよ。先生。」 「そうか…強くなったな、○○。」 天狗は一つ手を振ると、空へと舞い上がった。 その羽ばたきは、何処までも力強く、自由で。 守るべきものの元へと、真っ直ぐに飛んで行くのだった。 かつての暗闇ではなく。 夕暮れの光に、その姿を照らされて。
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映姫スレ/13スレ/506 の続き 「よくも騙してくれたわね!この淫婦がぁ!」 目の前には革手錠で拘束され、そのいきり立った慾情の塊を映姫に貪られ続ける○○の姿があった。 「幽香・・・頼む見ないでくれ・・・こんな姿・・・・ううっ」 「おや?誰かと思ったら罪人の花妖怪ではありませんか?生きている存在が是非曲直庁に来ることも罪悪ですよ?」 「そんなことはどうでもいい!!○○を返しなさい!」 ○○の妻である風見幽香はその手に妖力を集中させる。 「あなたがそのつもりなら・・・・」 全身から淫臭を未だ放つ映姫は冷たい表情で手を振る。 「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」 「○○!どうしたの!」 見ると○○の姿が少しずつ消えていく。 「言ったでしょ?○○はあなたの罪を償うために自発的に娼夫になって私に奉仕をしているのですよ。あなたの罪は即消滅を命じていいほどのものです。」 「畜生!これが閻魔のやることか!」 「あなたが罪を償いたいなら・・・・そうですね」 映姫は涙を浮かべ○○を抱きしめる幽香を、獰猛な笑みを浮かべながら見つめていた。 是非曲直庁 いまでは使用されていないが、罪人に自白やさらなる余罪追及のため古今東西の拷問具が用意された部屋がある。 映姫は○○との性活に充実させるために、この部屋を私的に使用していた。 映姫の腕に納まった鉛を込めた鞭が幽香の白い肌に振り下ろされる。 「ひぐぅ!ひぎぃぃぃぃぃ!」 「ふふっあなたのような汚れた牝でもいい声で鳴くのですね」 「下らない話よりも・・・早くぶちなさい・・・それで○○が帰ってくるなら・・・」 再び鞭が振り下ろされる。 「あがぁぁぁぁぁ!」 「帰ってくる?あなたのような汚れた罪人が汚れなき○○を独占するなど許さない!」 「もう・・・・もうやめてくれぇぇぇぇぇ!」 ○○が背後から映姫を抱きしめる。 「○○さん?まるで私が悪人のような物言いをするのですね・・・この牝が自分で罪を償いたいっていったのですよ?」 「俺がいつものように奉仕する。だからもうやめてくれ・・・・」 「だ・・・駄目・・・・私は妖怪だから平気だから・・・」 「麗しい夫婦愛ですか?ええ、やめてもいいですよ。あなたがこの牝の前でいつものように奉仕してくれれば」 ○○は服を脱ぐと映姫と唇を重ね、その指を服の下に滑り込ませた。 幽香は涙を流しながら、勝ち誇ったように喘ぎ声をあげる悪魔を声なく見つめていた。 「また貴方ですか?善行はどうしたのですか?」 「閻魔とあろうものが魂の質を見誤るとはね」 映姫が何時も以上に不敵な幽香をみると、みるみる表情が変わっていく。 「あ・・・貴方!なぜ人間の魂を持っているの!」 「私の知り合いに境界を弄れる妖怪がいてね。人間になって今までの罪を清算してきたわ。」 「自殺は害悪です!」 「自殺?私は公平な裁判で死刑になり縛り首され此処にいる。つまりは罪を償ったことになる。さぁ、私と○○を輪廻の輪に乗せなさい!」 「ありえない・・・・ありえない!消えなさい!!!!!!!!!!」 「無駄よ!」 「あなたが我が物のように使う浄玻璃の鏡。他の十王も持っている。つまりは貴方の職権乱用や、裁かずに魂を消滅させようとしたことも見ている」 「嫌よ・・・・嫌ぁぁァァァァァァ!○○を渡したくないぃぃぃぃぃぃ!誰か!誰かこの妖怪を消して!お願い!!!!!」 零落した王を助ける者など誰もいなかった。 幻想郷 人里より少し離れたところにある花畑。 まるで我が子のように花々を世話をする緑髪が眩しい妻と、ひたむきに妻を愛する養蜂家の夫。 生まれも育ちも違う二人はまるで、「前世」がそうであったかのように夫婦となった。 彼らの家の近くには何時からそこにあるのか、古ぼけた地蔵が一尊。 風雨に晒されたその面立ちは崩れ、絶えず涙を流しているかのようだった。
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「……どうなってるんだろう」 今私が向かっている場所は、昔のたった一人の親友、いや、昔の恋人との思い出の場所。 昔の自分にはあまりいい思い出はない。私は物心が付く前に両親が妖怪に殺され、 引き取ってくれる知り合いもおらず、所謂孤児院に入れられた。まあ、孤児院と言うほど設備は充実していなかったし そんなに入っている子供も多くはいなかった。自分も含めて5人程だったかな? そこでの暮らしは、あまり楽しくはなかった、自分は周りの子供達となじめず孤立した だけど、そこまで言うほど酷い状況にはならなかったし、別に虐められなどもしなかった。 ただ、ちょっとばかり、あの頃の私は悲観的になり過ぎていたのだろう。 そういえば村を守っている慧音さんは何時でも身寄りの無い僕達の事を気にかけてくれていたっけな ……きっとここにいる自分は慧音さんと大妖精さんがいなければ成り立っていないんだろう。 そう思うと、少し不思議な気分になる。 (見えてきた) 道中にある様々な目印(いままで残っているのが驚くぐらい単純なもの)を追って あの場所へとたどり着いた。 「……大妖精、さん」 「あ、やっと来てくれたんですね。あと大妖精さん、じゃなくって 大妖精お姉ちゃんって呼んで下さい!」 彼女の姿も性格も昔の頃とまったく変わっていなかった……様に見えた。 「まさかとは思いますけど、僕が来なくなってからもずっとここに?」 「来なくなってから? 変なこと言わないでくださいよ○○くん、ちゃんと会いに来てくれたじゃないですか。 でもちょっと遅かったですね、10年ほど待っちゃいました」 10年? 10年もの間彼女はここにいたのか!? 「なんでそこまで……」 「だって私は○○くんの恋人ですから。あ、そういえば○○くんももう18歳になったんじゃないですか? これで結婚できますね。お姉ちゃん嬉しいです!」 顔に笑顔を浮かべながら胸元に飛び込んでくる彼女。 あの頃の自分が心を開けるたった一人の親友。そして、恋人。 彼女はずっと待っていた、昔からずっとずっと。 ・ ・ ・ 僕はこの場所にいるのが好きだ、静かだから、僕の事を分かってくれる大好きな大妖精お姉ちゃんがいるから。 「大妖精お姉ちゃん、お願いがあるんだけど……いい?」 今はお昼、大妖精お姉ちゃんが作ってくれたお弁当を食べ終わって、 僕はじんせいさいだい? のお願いをする。 「なんですか? お姉ちゃんに出来ることがあるなら何だってしてあげますよ」 「あのね、僕、大妖精お姉ちゃんと結婚したい!」 「……だめです、人間は子供じゃ結婚は出来ないんですよ」 「えー、でも……」 だって、大妖精お姉ちゃんと一緒にいるときが一番楽しいんだもん、 僕、大妖精お姉ちゃんとずっと一緒にいたい! ずっと一緒に遊びたい! 「我儘を言っちゃだめだよ。でもね、結婚が出来ないかもしれないけど 変わりにお姉ちゃんと○○くんは、恋人同士にはなれるんだよ?」 恋人? 恋人ってなんだろう、そういえば大人の人がそんなことを言っていたなー。 「恋人ってなんなの大妖精お姉ちゃん?」 「う~んなんて言えばいいのかな~……とりあえず 殆ど結婚と同じことだと思うよ。結婚しなきゃ出来ないこともあるけど……」 「じゃあ僕大妖精お姉ちゃんの恋人になる!」 「じゃあ私も○○くんの恋人になるね」 けど僕が大人になって結婚できるようになったら、大妖精お姉ちゃんは…… 「……もしも、僕が子供じゃなくなったら大妖精お姉ちゃんは結婚してくれるの?」 「もちろん、結婚してあげるよ」 「やったー!」 「……○○くん、本当にいいんですね? お姉ちゃん本気にしますよ? いまなら、冗談にしてもいいですよ?」 今のお姉ちゃんの声はさっきと少し違う。 「なんでそんなこというの? 僕、大妖精お姉ちゃんが好きな気持ちは嘘じゃないもん」 そうだよ、僕、大妖精お姉ちゃんに嘘なんてつかない。 「そうだよね、変なこと聞いてごめんね。 ……じゃあ恋人同士でする遊び、しよっか」 「どんな遊びなの? 大妖精お姉ちゃん?」 「とっても気持ちよくて、幸せになれる遊びだよ」 大妖精お姉ちゃんが服を脱いでる、どんな遊びなのかな? ・ ・ ・ 頭をあの忘れていた最後の記憶が蘇った。ああ……そうだった、なぜ私はあの記憶 を今まで忘れていたのだろう、あの時、私の初めては大妖精に優しく奪われ、包まれ、抱きしめられ、 強烈な快楽が心と体に刻まれた。 その情事の後、私は外に出ていた事が発覚して、 長い間外出を禁止され彼女に会いに行けなくなった。そして、忘れた。 あんな記憶がありながら、私は彼女の存在を今日まで忘れていた。 何故だろう、分からない…… 「ね、○○くん。こんどは貴方が私を犯してくれませんか? こうすればあの時の私とおあいこですよ?」 大妖精、いや、大妖精お姉ちゃんがあの時と同じように服を脱いで裸になる。 「大妖精お姉ちゃん……」 「ちゃんと思い出せましたか? この体を貴方の好きにしていいんですよ? 私はもう貴方の妻なんですから」 私は一つの疑問を口にした。 「結婚するとどうなるの?」 「私が貴方から離れられなくなります。貴方も私から離れられなくなります。 とっても幸せですよ? お互いが満たされる最高の世界です」 私は彼女の小さな体にもたれかかり、全てを委ねる事にした。 「分かりました、貴方がそう望むのなら、妻として母として貴方を愛しますね」 彼女はしっかりと、私の体を愛おしそうに受け止めた。 暖かい……この温もりが僕は子供の頃から好きだった。 「私がずっと傍にいますから」 ・ ・ ・ 数週間後…… 丑三つ時、人里から少し離れた竹林を、妖精と人間が歩いている。 「やっと見つけたぞ大妖精! さあ○○を返すんだ!」 「大妖精だな? 慧音から話は聞いたよ。本当に妖精ってのは厄介だな」 二人の目の前に鳳凰の羽を生やした少女と頭に角を生やした少女が現れた。 「最近は空気が読めない人が多いですね、そう思いませんか慧音さん? 妹紅さん?」 大妖精と呼ばれた妖精が笑顔で言葉を返す。しかし彼女の語気は尋常ではない冷たさが含まれている。 「空気ねぇ、生憎私達はそんなものを読む為に登場したんじゃないんだ」 「ふーん、じゃあなんの御用ですか? 私は愛しい夫とお散歩の最中です、早くご用件を言ってください」 「……」 夫の○○はただ黙って成り行きを見守っている…… 「用件なら簡単だ、○○を里に返せ!」 「夫を貴方達に渡すわけにはいきません。この人は私なしでは生きていけないんです」 「黙れ、子供に色欲を教えた売女が! 貴様がどうやって私の能力を破ったのかは知らないが、 貴様のせいで○○は苦しんでいるんだぞ!」 「苦しむ? 違いますよ。私が○○くんと体を合わせた時、私は確かに○○くんの心を感じたんです。 一人きりで寂しく絶望に染められた心を。それを私は救ったんです」 「救う? ふざけるな! 貴様ら妖精や妖怪はいつもそうだ、過剰な愛情を相手に与え相手を壊してしまう…… 貴様が○○を犯した時、また同じ事が起こらないかと私は危惧した、だから私は自分の能力でその歴史を隠蔽し隔離した、 それが最善の策だった。だが貴様はそれを破った! またお前達は里の人間に手を出すのか! 同じ過ちを繰り返すのか! それなら私は里を守るために、その歴史を何度でも無かった事にしてやる!」 「慧音さん、貴方のその里の人達に対する考えも、ちょっと過剰じゃないんですか? あーそうか、結局貴方自身も半人半妖だから、私達と同じなんですね~あははっ」 「貴様ぁぁぁぁ!!」 満月の夜空に慧音の咆哮に等しい声がこだまする。 「け、慧音、落ち着いて、私達は争うために来たんじゃない!」 「はぁ……はぁ……」 「なあ、大妖精とやら、どうあっても○○を返そうとはしないんだね?」 「当然です。○○くんには人里ではなく、別の帰る場所がありますから」 「そうか、じゃあ――「弾幕勝負ならお断りです」 「負けるのが怖いの?」 「違いますよ妹紅さん。私達の仲を引き裂きたいのならそんな生温い勝負じゃ相応しくないってことです」 「じゃあどうするのさ」 「殺し合いをするんですよ。妹紅さんが輝夜さんと殺し合いをしているように」 「大妖――「大丈夫ですよ私はどんな事があっても絶対に負けません。安心してくださいね」 「はあ……分かったよ、もう返せだなんて言わない」 「妹紅!」 「無理だよ慧音、狂気には勝てない。それこそこっちも狂わなきゃ対抗できない……」 「ぐうっ……」 「分かったら早く帰ってください。夫が怖がってます」 慧音達は渋々といった様子で帰っていった。 「大妖精お姉ちゃん、クナイはちょっと物騒だよ」 「さすがですね、隠してたのバレちゃいましたか。でもこれは○○くんを守るために必要なんです 許してくださいね」 夜空の満月の下で一組の夫婦が散歩をしている。なんでも妖精と人間の夫婦らしい。 この夫婦はいつまでも幸せに暮らしていけるだろうか? それは誰にも分からない。 幻想郷ではありがちなそんなお話。